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3年がたちました

人間が海の表面だと信じているものを、魚たちは空気の天井だと思って暮らしているのかもしれない。

 

「じんべえざめ」という絵本はこんな一文から始まります。

子どもと絵本を読む時間を心から楽しいと感じる、きっかけとなった一冊です。

 

水色の背景に黒一色で描かれたじんべえざめは、絵本の中でとても巨大に感じ、読み進めていくと、海の中をゆったりと泳ぎながら、じんべえざめの間近にいるような気持ちになったものです。

 

息子が生まれてからというもの、お出かけといえば公園の日々でした。

子どもが迷惑になってしまう美術館などの静かなところからは心も体も遠ざかっていたある日、新宮晋さんの展覧会を知り、「これは行かねば」と、1歳半の息子を抱っこ紐で抱っこして訪れました。風や水など自然の力で動く彫刻を展示したもので、作品が動いていたからか、息子もの機嫌もよく、私も心をリフレッシュして楽しむことができました。その新宮晋さんというのが「じんべえざめ」の作者で、展覧会の帰りに絵本を購入したのです。

 

帰って読んでみると、今まで絵本を読んでもガサゴソしていた息子の、絵を見つめる静かさに驚きました。もちろんあまり長くは集中も続かないので、例えばじんべえざめのお腹が登場するシーンでは息子のお腹をポンポンとたたいてみたり、耳や目が出てくるところでは息子の耳や目をそっと触ったりと、アレンジは加えました。それでも今までとはどこか違う集中力を感じた絵本でした。

 

おそらくそれは絵の力にあったと思います。

息子が強く惹きつけられ、絵から息子なりの何かを吸収し、心を動かされていたのだと思います。そして私もその絵が好きだということもありました。一般的な赤ちゃん絵本はどうしても好きの度合いを大人が子どもに寄せる形になる気がしますが、この絵本に関しては、息子と私のどちらの好きも同じくらいだという感覚がありました。

 

そうなってくると絵本は楽しくなります。

一緒に読む大人もやっぱりその絵本が好きというのは、絵本を楽しむ1つの条件だと思います。絵本は、何かを教えてくれるものではなく、楽しい時間を過ごさせてくれるものだからこそです。だから必ず通らないと成長できないものでもなく、絵本に楽しさを感じなければ、他のことに楽しさを見つけたらいいと思います。ただ、それでも思うのは、知らずに通り過ぎるのは勿体無いということです。

 

だから良い絵本に出会える絵本屋を作りたいと思いました。

息子と絵本を読む時間は本当に楽しかったし、6才の今も毎日なくてはならない時間です。息子にとっても、日々感じることが多くなってきた年齢の中、絵本の世界に入り込む時間は貴重なのではないかと、絵本をじっと見つめる姿から想像しています。

私自身も子どもの時はずいぶんその世界に心が助けられた記憶があるからです。

 

ちぇすなっとをオープンして、3年が経ちました。

店を続けるというのはなかなか体力気力が必要です。それでもまだ続けていられるのは、こんな駅から離れた(ほんの5分ではありますが!)住宅街にある店に、夏の暑い日、雨の中、雪の降る中、お客さんが来てくれているという奇跡のような事実です。わざわざ来てくれる。その事にどれほど後押しされたかわかりません。

 

 

駅から美術館までは長い坂がひたすら続きます。心地よく視界が開けているその坂道は、美術館に行く高揚感を高めてくれます。

当時1才半の息子を前抱っこしながらひたすらその坂を下り、おしゃぶりを落としたことに気づき、汗をかきながら戻ったのも今では良い思い出です。

 

いつの日か、ちぇすなっとも、「あのお店で絵本を買いたい」とたくさんの人に思ってもらえる、魅力ある場となりたいと思っています。使命感を持つと空回りしそうなので、淡々と、ただただ、絵本を読む時間は楽しいから。

「じんべえざめ」を息子と読んだ時間を忘れない絵本屋でいたいと思っています。

 

 

 

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「じんべえざめ」

新宮 晋

文化出版局 2013.6.16

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