· 

本を繋ぐ仕事

店の前に100円や300円と表示した箱を置くようになったのは、オープンから1年以上が経ってからでした。

値下げした本の箱を外に置くことにはいくつかの葛藤があったのです。

 

まず、外に本を置くと表紙が陽に焼けて色が落ち、砂埃でざらざらになります。

それに、外の本を見て「安い」と店に入って来た人が、中の本の値段にがっかりするのではという不安もありました。店のイメージ作りは重要だと思っていたし、何より絵本の店として、少しかっこつけたかったのかなと今では思います。

それに、ちぇすなっとに並べている本は、古本ではあリますが、一冊ずつ選書し、それなりの額を支払って仕入れています。だから安くできないというのも問題でした。

 

それでも店を始めて1年も経つと、気持ちも軽くなるもので、一度やってみようと試しに箱を置いてみたのです。

結果は思った以上の反応でした。通りがかりの人が立ち止まってくれるようになり、今まで通り過ぎていた近所の人が一人、また一人と、100円の本を抱えて入ってきてくれる様になったのです。

 

外に置いているのは絵本以外の本が多く、時代小説本、ミステリー小説、自己啓発本、雑誌など、一般的な古本屋に並んでいる様な本です。

ちぇすなっとでは本の買取リはしていませんが、1年、2年と絵本屋を続けていくうちに、知人や近所の人など、本を譲ってくれる人が増えてきました。今まで所有していた本を手放したい、でも捨てるのは心が痛む。誰か必要な人に貰ってもらえたら、というタイミングで声をかけてくれる人が何人もいました。遠方から車で運んできてくれる方や、近くに来るついでに、少しずつ持ってきてくれる方、宅急便で送ってきてくれる方までいます。

どの本ももういらない本ではあるけど、想い出が詰まっていたり、何か役に立ちたいという願いが詰まっていたり。そんな本を受け取る時はいつも、感謝の気持ち以上に、じんわりとした使命感の様なものが湧き出てきます。

 

譲り受ける本は絵本ではないことが多いので、店の特質上、安価で販売することになります。でも大切なのは金額ではなく、その本が欲しいという人の元へ届くということ。想いの詰まった本を店で扱う様になってから、古本屋としての役割を強く感じるようになりました。

 

毎朝店の外に本の入った箱を並べるのは、ちょっとした力仕事です。

雨が降ったら中へ運んで、晴れたら外へ出してを繰り返す日もあリます。外に出した本が1冊も売れずに終わることも珍しくありません。100円だからって、どかどかと売れるわけではないのです。やっとのことで一冊売れたとしても、その利益は、店の家賃や経費を補うには程遠い金額です。

 

だけど、とてもうれしいのです。

 

本が一冊売れることもうれしいし、本を抱えて店に入ってきてくれることもとてもうれしいのです。

 

いつも店の前を歩いている人が、本を片手に店の扉をガラリと開けて入って来てくれる。店の前に本の箱を置かなかったらあり得なかったことです。

そういう人は、それ一回きりの人もいるし、また次に来た時は店内の本を見てくれて、次に来た時にはコーヒーを飲んでくれる、なんて人もいます。月に2回くらい、定期的に100円の箱の本を1、2冊、買っていってくれる人もいます。

 

安い本だけでは利益はほぼ出ないかもしれない。

でも古本屋でいたいという気持ちを後押ししてくれるのは、本を買ってくれる一人一人の存在です。

並んでいる本を手に取り、欲しいと思い、お金を支払って購入する。その行為一つ一つが、店に立つ者にとっては、この店を続けてくださいねと言ってもらっている気がするくらい、大きな支えになっているのです。

 

ちぇすなっとは今日で丸4年です。

いらなくなった本を次に必要とする人に繋ぐ喜びを、この4年間の中でたくさん体験することができました。そしてそれは、絵本に固執しすぎなくてもいいということも少しずつわかってきました。

根っこにあるのは本を売りたいという気持ち。

岡町という町にある古本屋として、これからもその役割を模索していきたいと思っています。