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小さなお店で買い物

今までアルバイトした店でお客さんに「ありがとうございました。」と言ってきたけど、

あれは今思えば、ぜんぜん「ありがとう」ではなかった。

自分の店を始めると、お客さんへの「ありがとうございました。」が心の底からでてきた。

自営業を始めてよかったと思った。

 

―――――どこかで読んだ自営業の方の言葉です。

 

この言葉がずっと頭に残っていて、開業をあきらめかけたときはいつもこの言葉を思い出し、「いやいや、やっぱりお店やりたいな」と気持ちを持ち直す支えとしていました。こんなお店が開きたいとか、理想をかたちにしたいとか、お店を開業する表面的な理由はたくさんありましたが、根本に「自分の気持ちに素直に生きたい」という想いがありました。

 

実際に開業すると、お客さんが来てくれて、本を買ってくれる。コーヒーを飲んでくれる。「ありがとうございました。」という言葉は心の底からでてきました。とてもすがすがしく、うれしいものでした。古本の絵本が本当に売れるのだろうかという不安をよそに、お客さんが本棚に並べた絵本をうれしそうに選んでくれて、大切そうにレジまで持ってきてくれる。このお店そのものを認めてくれたようなそんな気持ちになりました。

 

開業を考え始めた頃から、近所の豆腐屋さん、魚屋さん、八百屋さんなどの小さなお店で買い物をすることが多くなりました。スーパーに比べると、少し割高です。しかも子どもを連れていると、ものすごく手間がかかります。雨の日はやっぱり避けてしまいます。でも子どもにとってはあいさつの楽しさがあるし、少し高くてもやっぱりおいしい。そしてなにより、ちぇすなっとで一日店番をしていると、一人、また一人と中に入って来てくれて、本を真剣に選んでくれたり、買ってくれたりというその一人一人の存在が本当にうれしく、私もその一人になりたくて、うずうずするのです。

 

このコロナ禍の中、ちぇすなっと近くの商店街もとても静かになりました。お客さんのいない店舗で佇んでいるお店の人の姿を見ると、いてもたってもいられなくなります。小さなお店は物が売れなくて経営がなりたたないということよりも、お客さんが来ない、必要とされていないかもしれない、というところに心折れそうになっているような気がするのです。だから少しでも立ち止まって買うことで、元気になってほしくて、先日も豆腐屋さんに行きました。

 

息子が「うすあげ3枚ください〜」と大声で叫び、豆腐屋のおじさんが「今日も元気やな!」と水にぬれた冷たい手でお釣りを手渡してくれ、「いつもありがとー」と大きな声で見送られ・・・結局元気になっていたのは、私たち親子のほうでした。