· 

動物園という場所

息子が歩き始め、1才になり、いよいよ公園では物足りなくなった時、2つの動物園の年間パス(大人用)を所有していました。どちらの動物園も家から電車で1時間ほどのところにあり、毎日の公園につかれた時、気分転換として大きな味方となってくれていました。おそらく息子自身は毎日近所の公園でも満足していたのだろうと思いますが、親の私の方が変化を求めての動物園通いでした。

 

お出かけ先は水族館ではなく、動物園でなければいけません。

どちらも生き物を展示している博物館ですが、水族館は中、動物園は外。そこには大きな違いがあります。

室内となるとやはりじっとしていることが大前提。水族館はじっと水槽の魚を眺めたい子には楽しいのですが、息子にはそれはしんどいようです。5才になった今もたまに水族館に挑戦しては、まだ早かったと後悔して帰るということを繰り返しています。これは元々水族館好きだった私たち夫婦には予定外のことでした。子どもが生まれたら子どもを理由に水族館に行こうと楽しみにしていたのですが、その日はまだ少し先のようなのです。

 

さて、動物園に行くと息子は走ったり、ジャンプしたり、大声で叫んだりしながら園内をめぐります。

じっとしていないといけない電車をじりじりと耐え、動物園に入ってすぐベビーカーから飛び降りた息子は、それは軽やかに走り去っていきます。気持ちよさそうに走る姿はまるで野に放たれた子羊のようです。

走っていく息子を見送るその瞬間が、2才、3才の子育て中の心穏やかになる時間の1つでした。今はもう5才で多少じっとできるようになりましたが、それでも動物園の門をくぐった瞬間は心底ほっとします。

 

私たちの住んでいる地域は、都会から少し離れた町ですが、山や川は遠すぎます。公園はたくさんあっても道路に面していたりと危険も多く、なかなかのびのびと遊ばせられません。かといって室内の施設は、意外に制限がたくさんあるので、ほぼ利用せずに過ごしました。毎日エネルギーの塊のような息子とどう過ごすか、途方に暮れていた時の救いの場が動物園だったのです。公園に退屈すると、2人でいそいそと動物園に行きました。思い出がいぱいつまった場所です。

 

動物を少し立ち止まって観察するようになったのは3才ごろ。初めてアイスクリームをおっかなびっくり食べたのも動物園。父ちゃんと初めて2人だけのお出かけをしたのも動物園。5才になって初めて動物園に併設されているメリーゴーランドに乗った時の幸せそうな顔も忘れられません。その後初めての観覧車でも大興奮。観覧車の上から動物園を眺めると、何年も積み重なった思い出が蘇って来ました。

 

子育てをしているとついないものねだりをして、田舎に暮らしたいなどと思うことがあります。

どこまでも、どこまでも、制限のない場所で息子を走らせてあげたいといつも願っています。気づけば自然豊かな幼稚園をネットで検索していたりもします。でも当たり前ですが、町には町のよさがあります。町で住むのだったら腰を据えて、子どもには町の中のさまざまなことに付き合わせてあげたらいいのでしょう。

動物園もあるし、公園もたくさんある。公園には木もあるし、小さな虫たちもいる。その町ならではの子どもたちとの出会いもあります。それぞれの住む環境にはそこに沿ったものと人があって、そこで大きくなっていくのが子どもで、子どもだから大自然の中で遊ばせないといけないということもきっとないのだろうと思うのです。

 

その日1日を大切に。

目の前にいる子どもを大切に。

今住んでいる場所でできることを大切に。

それができたら幸せはすぐやってくるのかもしれません。

日常を大切にする心を、子どもとの日々が教えてくれている、そんな気がします。